八木 私もそういう偏見は好きになれないんです。一部の報道だけを切り取って海外は銃社会だ、それに比べて日本は平和だという人もいます。でも、療育や就労支援の面で見ると、身体的に困難があるという理由だけで隔離されている人が日本にはいっぱいいるんです。
意思もあるし自分で動けるのに施設に入って、老後も決められてしまった人にたくさん出会ってきました。その証拠に日本では街中で重度の障がいを持つ方にあまり出会わないですよね。
川上 確かに出会わないね。
八木 出会わないのはそういった施設に入っているからか、周囲の人が周りの目を気にして隠そうとしてしまうからで、それをよしとしているところが日本にはあるんです。もちろんそれがいい点でもありますし、例外もありますけど。
私が欧州にボランティアに行っていた時に私自身もすごく驚いたんですけど、重度の身体的困難を抱えている人が社会の一員として当たり前のように仕事をしているんです。私が出会った人の中には両手がないけれど、口でペンを咥えてキーボードを打って仕事をされている人がいました。その人はものすごくキラキラしていたんです。
どの国でも同じ数だけ、生きづらさや困難を抱えている人がいるはずなんです。もちろん日本にも。いま私は手話を勉強しているんですけど、ゆくゆくは困難を抱えている人やそのご家族、障がいの有無に関わらず生きづらさを感じている人に届くような活動も行っていきたいと思っています。
川上 もし手話ができるAV女優がいたら貴重な存在になるよね。
八木 プライベートで使いたい場があるので手話を勉強しているんですが、AV女優として披露する場なんてないんですよね。
川上 それは自分で動けるはずだから、その肩書を使う必要性があっていいと思うし、それを掲げて活動したら唯一無二のAV女優になれると思う。
八木 AV女優って設定や守るべきイメージもあるじゃないですか？
川上 あるよね。そこを気にするんだ？
八木 自分の何をどこまで公表していいのか、その境目があまり分かっていないんです。
川上 メーカー側のプランと八木ちゃん自身のプランと、どう折り合いをつけるかだよね。
八木 その葛藤は川上さんもデビュー時にはありましたか？
川上 設定はすごくあったけど、ある期間を区切りに「自分から率先してAV女優になりました。でも、ウソです。内緒ですけど、本当かどうかわからないですけど(笑)」ってユーモアをつけて言うようになった。自分のタイミングだし、そこでファンが離れるかもしれないけど、それでもついてくるファンがいればいいと思う。自分自身が一生懸命、ファンと向き合っていれば全員がディープなファンになるから。
八木 すごいですね。この先、何を自分の肩書にするかを考えたうえで手話も出していけたらいいなと思います。
川上 そうすると地に足をつけて行動できるよね。そうしたらファンも増えるよ。SNSでしかつながっていないファンも大ファンになってくれるの。あとは芸能関係の人もちゃんと見ているから。AV作品のありとあらゆる表情をちゃんと見ているから。
きっといまはフワフワしていると思うし、ゴールや目的がないとすごく迷うしツラくなるから、ちゃんと自分を持って周りとの折り合いをつけて、自分を見てくれた人に対しては感謝することだよね。
八木 AV引退後の人生や、そのためにいまやるべきことは具体的に考えているのに、AV女優としてのゴールや肩書きについては全然考えていませんでした。
川上 さっきの話に戻るけど、海外での支援活動に対して、AV女優の肩書を付けられるのか付けられないのか、本当にそこから考えた方がいいよ。自分の中であらためて考えて、支援活動をする時にAV女優の名前を使っては失礼だと思ってもいいの。自分をどこまで守るかが大事じゃないかな。それで全部決まるよね。
── 最後にちょっと恋愛に関する突っ込んだ話にいきたいのですが結婚の話もしますか。八木さんの人生グラフだと「結婚？」と「？」がついていますが。
川上 結婚願望はあるんですか？
八木 結婚願望かあ。正直に言うと絶対に結婚したいという気持ちはありません。ただ、結婚という未来は選択肢としてありだなと思っています。いまはそれを考える相手もいないですし、結婚する年齢も全然考えていないです。
ただ、結婚してもしなくても自分の中の人生のビジョンは変わらないかなあ。結婚がゴールだと思っていないんです。結婚して子どもを作って家庭を築くのも素敵な人生ですし、そうではない人生も素敵だろうなって思っています。
川上 結婚願望が本心としてあるなら言ってもいいと思うし、「まあ、分からないですけど」ってユーモアを交えて言えば、ミステリアス感も残るので、それもAV女優としての演出にはなるよね(笑)。
でも、仲間と言える人や味方はたくさんいてほしい。どうしたらみんなが集まってきてくれるかは考えてほしい。八木ちゃんがこれからやりたいことはたくさんの力が必要だから、人を引き付けるのはどうしたらいいのか考えてほしいかな。
八木 課題にします。
── 川上さんは知らない間に人が集まり、芸能界、アダルト業界の人がバックアップしてくれていますよね。
川上 そうですよね。
八木 川上さんのそういうところが本当にすごいと思っています。自分の可能性を広げるためにあらゆる場所に行ったりもしているでしょうし、その行動力、自己PR力を見習いたいです。もちろん行く場所全部がいい場所ではなかったと思います。その中で自分の行動を信じ続けた結果、バックアップしてくれる人を見つけているんだと思います。
そういう川上さんの努力が実際の活動や過去にいただいた言葉からも伝わってきます。
川上 八木ちゃんにも真似してほしいし、自分が本当に思っていることを発信する場を見つけてほしい。書き物として表に出して相手の反応を見たり、話せそうな人を見つけて聞いてもらったりして頼れる人や場所を見つけてください。
八木 それはすごい勇気がいることですよね。
川上 勇気がいるけど、それをしないと潰れるし腐るよ！
八木 はい。
川上 自分がやりたい場所に戻ってこれなくなるよ。
