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2大官能作家・草凪優、沢里裕二が新しくスタートした官能小説レーベル「悦」で挑んだ“新官能”について対談。旧来の官能小説との違いと、官能小説の目指すべき道を語り合う!

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今年3月に立ち上がった新レーベル『GOT官能倶楽部「悦」』。その第1弾として、純情な愛と暴力が過激に交差する『リ・バース~傷だらけの女神たち~』(著:草凪優)、大手広告代理店を舞台に陰謀と愛欲がうごめく『情事の報酬~残りの春~』(著:沢里裕二)が2作同時にリリースされた。実力、人気ともにトップに君臨する2大官能作家たちが挑んだ“新官能”。旧来の官能小説とはどこが違っているのか。そして、これからの官能小説の目指すべき道はどこにあるのか。著者ふたりに対談していただいた。

草凪優、沢里裕二、2大官能作家たちが挑んだ“新官能”とは?

── 本日はお集まりいただき、ありがとうございます。2作とも、とても楽しんで読ませていただきました。どちらも濡れ場はもとより、ストーリーも面白く魅力的でしたが、改めて“新官能”とは何なのか、おふたりのお考えを聞かせていただけますか。

草凪優(以下 草凪) エッチな小説ではいわゆるハードポルノ、濡れ場ばかりがつらつらと書いてあるものが、ここ2、30年の主流でした。それ以前は俺の大好きな富島健夫や、「わたし~なんです」という文体で一世を風靡した宇能鴻一郎なんかが、スポーツ新聞や週刊誌に文芸系の官能小説を連載していて、大人気だった。

けれど、オナニーするのに物語の部分がまどろっこしいっていうニーズもあって、それを受けてどんどん余計なものをそぎ落とすって流れが出てきた。そうして生まれたのがフランス書院文庫や二見書房のマドンナメイト文庫。密室に男と女がいて、やりたいことやったほうが陶酔感あるんじゃないの、と。だから以後、作家はストーリーではなく、責めるシチュエーションや行為のバリエーションに腐心してきた。けど、同時期にはAVも興隆していったわけ。で、ハードポルノではAVには対抗できないんですよね。そのものズバリの濡れ場を観たかったら、AVのほうが断然にいい。

沢里裕二(以下 沢里) そうなんだよね。ハードポルノは30年前にそれ以前の「文芸の一角だった官能小説」を打ち倒して、独自のジャンルとして覇権を得たわけだけど、その栄華も遂に終わったって感じがする。出版不況だとか、コロナ渦のせいとか言っているけど、完全に飽きられたのが現状。

AVは凄まじい勢いで凌ぎを削り、マンネリを打破しようと次々に新しいトレンドを生み出してきたけど、官能小説は、そもそもマンネリを是とする風潮があった。描くのはセックスだから、似て当たり前とばかりに、同じような作品を平然と発表してくる。そりゃ滅びるさ。作家はかつてないものを生み出すから存在価値がある。昨日と同じ作品、誰かと似ている作品は要らないでしょ。発情の幅がどんどん小さくなる。

草凪 官能小説評論家の永田守弘って、もうお亡くなりになってしまった方だけど、その言葉を借りれば淫心、まぁスケベ心ですが、官能小説っていうのは、スケベ心を養うのにすごく有効なんです。なぜならば、小説はキャラクターを作り、その心理を掘り下げていくっていうことをやっているから、読者は感情移入していける。それどころか、スケベっていう感性を身に着ければ、AVはもちろん、いろんなことをよりいやらしく感じることができるわけ。なんなら秋刀魚の光沢にだっていやらしさを感じられますよ(笑い)。

沢里 割り込んで悪いんだけど、永田守弘は、官能小説というジャンルをものすごく狭い範囲に閉じこめてしまった批評家で、僕は評価していない。例えば「重松清の『愛妻日記』を官能小説とは呼ばない」なんてことも書いていた。ナンセンスだ。要は他ジャンルでも活躍し、直木賞まで取った作家の作品は官能小説ではないと言いたいわけだろうが、この狭量さが実は官能レーベルには蔓延している。衰退の原因はそんなところにもあるんじゃないか。AV界はそんなにケツの穴が小さくなく、どんどんメジャーを取り込んでいった。その差がいま出ている。官能小説がスケベ心を養うというのはその通りで、読んで、もやもやした気持ちになって、その後、映像をつけて一気に抜くというのは理想かも知れない。

草凪 だから、“新官能”はハードポルノとは違ってAVに対抗するものではない。むしろ、スケベ心を養って、AVをより深く楽しむためのガイドとして共存できる。淫心があるのと、淫心が乏しいままでオナニーするのとは、まったく気持ちよさが違うと思うんです。『活字のほうが想像力を逞しくできるから、興奮します』なんていう書き手は本当になにもわかってない。想像力を逞しくしてAVを観たほうが興奮するに決まってる。AV作品を題材にして、小説化するとかって興味があるし、してみたいですね、官能作家がどこに注視し、どこを省略するかって面白いし、これもまた“新官能”として成立するんじゃないかな。

沢里 AVのノベライズって、僕もやってみたいね。官能小説の映画化ではなく、官能作家がAVをノベライズするのが時代の流れかも。小説の映画化はいかに省略するかだけど、AVの官能小説化は、映像で語られていなかったことを加筆する面白味がある。 

草凪 “新官能”のもうひとつの特色は時代性。ハードポルノ以前の官能小説というものは、時代とともにあった。社会的な風俗を活写していたから、読者に受け入れられて支持された。けど、そういうのって時代の経過とともに消えてしまうから、今読んでもあんまり面白くないんですよ。でも俺は消えてしまうことは悪いことではないと思っている。死語ってあるじゃないですか。それは生きていたから死語になるんです。一瞬でも生きていればいいわけで。今の時代の物語を我々が書けば、それは一瞬でも生きた証になる。10年後には死語になるかもしれないけれど、同時代に生きている人に楽しんでもらえるように、今の時代の空気を取り入れていきたいと思っています。

沢里 小説はどんな分野であれ、時代を映していると思う。30年後に再読したときにあーこんな時代だったという記録でもある。それより僕は“新官能”って“旧官能”を追いやることだと思う。そういう意味では草凪さんなんて20年間ずっと“新官能”だったわけよ。「官能小説はどこ開いても濡れ場であるべき」という時代に、鮮やかなストーリーと心理描写を持ち込んだのが草凪さん。それでだいぶトレンドが変わった。いまエロの需要はむしろに急速に伸びて一般化している。

引きこもりの3年の間にオナニー中毒になった人が沢山いるそうだ。もっと広い層に対応できる官能小説が必要となる。そのひとつの手段として一般文芸に近いラインを狙う、この『GOT官能倶楽部「悦」』はアリだと思う。結局は抜くためなんだけど、そこに至る過程の方を楽しみたい読者もいるはずで、“新官能”には温故知新の必要もあると思う。

 

── 『リ・バース』の、繁華街ばかりが発達した地方都市で、半グレの下で働く主人公と、新宿歌舞伎町で立ちんぼをしていた地雷系女子とが、必死にサバイブする姿は今日的なアンダーグラウンドを覗き見しているようで、刺激的でした。一方で『情事の報酬』は、広告代理店という華やかな業界の裏幕が描かれていますが、こちらも有名な音楽プロデューサーの夫を持つレコード会社勤務の人妻と、帰国子女で自由奔放な社長秘書というヒロインが、どちらも現代的かつ主体的で、同じ女の目から見て「カッコいい!」と惚れ惚れしました。

沢里 『リ・バース』は、これまでの草凪作品をさらに深化させ、純文学とエンタメを融合させた唯一無比の作品。エロくて深かった。草凪作品には過去にもバットエンドものは沢山あった。『リ・バース』も主人公は最悪な結末を迎える。なのに、読後感がまったく不快じゃない。やはりこれも心理描写の深さのなせるわざ。退廃と暴力の中に漂う異様な色香とリアルセックス。衝撃のラストに、僕はむしろほっとした。同時刊行だが完璧に敗北感を味わった。腕の差だ。負けても嫉妬はない。草凪優が本物だからだ。

草凪 これまでの沢里作品の魅力は、軽快なテンポとはっちゃけたストーリー。ラノベ感が強い印象があったけれども、今回の作品は文章も落ち着いているし、その割にはキャラクターが今まで以上に跳ねている。官能系の企業小説って今の人はあまり読んだことないと思うんだけど、芸能の世界ってなると興味をそそられるじゃないですか。『情事の報酬』は、芸能の世界を舞台にしたエッチな島耕作ですね。ここ大事だからもう1回言います。ドエロい島耕作。

── 官能小説のこれまでから、この先どうなっていくかまで、興味深いお話を聞かせていただき、これからも、おふたりの描く新しい官能の世界を楽しんでいきたいと思います。今日はどうも、ありがとうございました!

 

『リ・バース~傷だらけの女神たち~』(著:草凪優)

クズなような人生で唯一男を裏切らなかったのは、「思い出」だけだった。17歳で高校を中退し、地元を飛び出して半グレの手先として働く野崎。が、とある事件を起こし、追っ手から逃れるために地元へと10年ぶりに戻る。そこで高校時代の初恋の女性と再会するも── 町で一番の美少女と育んだ思い出を穢すものには消えてもらうしかない。どうしようもない男と女の「再生」の物語。

 

『情事の報酬~残りの春~』(著:沢里裕二)

レコード会社宣伝部の人妻と帰国子女の社長秘書……ふとした魔が、嫉妬を呼び、関係を深め、快楽の度合いを一段引き上げる。広告代理店に勤務する石坂は4年後の定年退職を控え、次期取締役の座を狙っている。絶対に仕事で失敗はできない。そんな折、担当する音楽祭に招聘したビッグアーティストから来日キャンセルの報を受ける。石坂を助けようと、思いを寄せるふたりの女たちは── 大逆転のリアル企業官能小説!!

(聞き手・構成:大泉りか

 

 

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