アダルトメディア評論家・安田理央がアダルトVRについて語る!
今年はVR元年と言われている。6月には秋葉原で「アダルトVRエキスポ」が行われたが、予想を上回る来客数で会場に入りきれずに急遽中止に。8月に行われた第二回は抽選制になり、1500人以上の応募があったそうだ。アダルトVRへの注目の高さが伺われる出来事だった。
そして11月10日、11日にディファ有明で開催されたAV業界の一大イベント、「JAPAN ADLUT EXPO 2016」においても、多くのメーカーがアダルトVRコンテンツを展示し、観客にAV女優との「仮想セックス」を体験させていた。
筆者も「JAPAN ADLUT EXPO 2016」では、AVVR、SODクリエイト、TMAの3メーカーのVRコンテンツを視聴させてもらった。どのブースでも順番を待つ客の列が出来ていて、こういう場でもアダルトVRは期待されているのだな、と実感した。
JAEの会場では、AVVRがスマートフォンをモニターに使った簡易型ヘッドセット、SODクリエイトとTMAはGalaxy Gear VR などの専用ヘッドセットを使用していた。
いずれもダイジェスト的な内容で、女優が男優に愛撫しているのを主観撮影した映像を3Dで楽しめるというものだった。顔を動かすと、視点が変わるので、よりリアルに楽しめる、というのがウリだ。
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三社の中では、TMAのものが一番ヴァーチャル感があったが、それは出演している蓮実クレアの手足の長さがより立体感を感じさせてくれたからかもしれない(実は、このブースには蓮実クレア本人もいて、VRを見ている時に、突然首筋を触ったり、囁いたりしてくれたからというのもあるかもしれないが)。
市場の縮小が進むAV業界(というよりも、音楽や映画などを含めたコンテンツ業界すべて)において、VRは新たな市場を開く救世主のように見られている。VRの普及が、この業界の起死回生のチャンスとなるのではと期待されているのだ。
「これはすごい! もう生身の女なんていらなくなるかもしれない!」
アダルトVRに関して、そんな興奮した表現を散りばめた記事も、よく見かけるようになった。
しかし「アダルトVRエキスポ」にも足を運び、それ以外でも、いくつかのアダルトVRを体験している筆者の意見は少し違う。
まず、コンテンツとしての力が、まだまだ弱すぎる。今の実写のアダルトVRは、単に多少視点を動かせる3D映像でしかない。結局、大きな画面の映像を狭い視野で見せているだけなのだ。これのどこが「ヴァーチャル・リアリティ」なのか、という気になる。
だとすれば、数年前に爆死した3DAVと何の違いがあるというのだろうか。
そう、3DのAVが登場した時も、同じような口調で興奮気味に「これからはAVも3Dの時代だ!」と叫んでいた人たちがたくさんいた。
しかし、実際には一年後にはすっかり忘れさた存在となっていた。というよりも、その存在すら知らなかった人の方が多いだろう。
アダルトVRはその二の舞いとなるのではないか。筆者はどうしてもそう思えてならないのだ。
いや、CG系(美少女ゲーム)であればもう少しインタラクティブ性も打ち出せるだろうし、ユーザー的にも親和性はあるように思われるので可能性は感じられる。
しかし、現在の安易なアダルトVRコンテンツであれば、一作品でも見れば、もうそれで好奇心が満たされるだろう。
そもそも、AVユーザーは意外に保守的であり、(AV女優とのツーショットチェキでも撮れるなどの理由がない限り)できるだけお金も払いたくないのが正直なところだ。それを裏付けるのが、AVでは未だにブルーレイが普及していないという事実だ。アニメや映画のジャンルでは一般化しているブルーレイも、ごく一部の単体物しかリリースされていないのだ。
わざわざこのために数万円のヘッドセットを購入し、10分程度で千円から二千円という割高なVRコンテンツを購入してくれるだろうか?
ならば手軽なスマートフォン利用の簡易ヘッドセットならどうだろう? こちらならスマホさえ持っていれば千円くらいで段ボール製のヘッドセットを購入するだけで済む。
いや、いくつかのアダルトVRコンテンツを体験してみた筆者としては、この簡易型こそがVRの普及を遅らせるものに思えるのだ。スマホ利用の簡易型ヘッドセットで見るVRコンテンツは、没入感からしても、やはり「それなり」なのだ。「ふーん、こんなもんか」くらいの感想しか浮かばないのが正直なところだ。これを最初に体験してしまうと、VRはこの程度のものだという認識をされてしまうだろう。まぁ、実際は今のところ専用ヘッドセットでも、それほどの差はないともいえるのだが……。
こうした新しいメディアが生まれると、最初にシェアを取った者が勝つ、という印象があるのだが、ことアダルトに関してはそれは当てはまらない。
ちなみに、アダルトDVDのパイオニアはh.m.p(当時は芳友メディアプロデュース)であり、インターネットはKUKI、ブルーレイはグレイズである。
筆者としては、VRという技術自体がそれほど一般的に浸透するかどうかも、疑問視しているのだが、少なくともアダルトがその牽引力になることはないだろうと考えている。
新しいメディアを普及させるのは、アダルトの力だという都市伝説的な思い込みは、もういい加減に忘れた方がよい。
ただ、もしもアダルトVRが普及するとすれば、ビデオボックスのような店舗で楽しむような風俗型ではないかと思うのだ。撮影も設備もそれなりにコストをかけて、一回一回の鑑賞料(体験料)を少し高めに設定するというような。3D映画が映画館でのみ存続したのと同じだ。
そこにクローン複製した蓮実クレアが個室ごとにいて、TMAブースで試した時のように触ってくれたりすると最高なのだが……。
(文:安田理央)
安田理央(やすだりお)
雑誌編集、コピーライターを経てアダルト系フリーライターに。
アダルト以外にもマンガやグルメ等幅広く執筆。
AV監督やカメラマン、バンド活動もこなす多才人でもある。
新刊「痴女の誕生 アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか」(太田出版)発売中。
◉Twitter:@rioysd
◉ブログ『ダリブロ 安田理央Blog』:http://rioysd.hateblo.jp/