
香水じゅん「月で逢いましょうvol.151」ライブレポート!
ステージに彼女が現れた瞬間、会場は静寂に包まれた。その姿は誰もが息をのむほど美しかった。だが、この日のライブが描こうとしていたのは、その美しさの裏側にある孤独だったのかもしれない。
「美しいということは、それだけで特別な価値を持つ」
そんな世間の価値観に問いかけるように、楽曲は静かに幕を開ける。スポットライトを一身に浴びる彼女は、堂々とステージの中央に立ちながらも、どこか儚げな表情を浮かべる。その姿は、多くの視線を集めながらも、誰にも本当の自分を理解してもらえない主人公そのものだった。
サビでは力強く歌い上げながらも、視線の先はどこか遠くを見つめている。華やかな照明に照らされ、スポットを浴びる姿とは対照的に、歌詞が紡ぐのは退廃的、虚無的な物語。観客はそのギャップに引き込まれ、会場には楽曲の世界観へ没入する空気が流れた。
終盤に向かうにつれ、歌声には切なさだけでなく、前を向こうとする強さが宿る。何度傷ついても立ち上がり、何度裏切られても歌い続ける。その姿は、悲劇のヒロインではなく、自らの運命を受け入れながらも懸命に生きる一人の女性として映った。


美しいことを否定するものではない。人は美しさに惹かれる一方で、その奥にある感情や痛みを見落としてしまう。その矛盾を歌と表情、そして繊細なステージングで見事に表現してみせた。
8月6日、東京・三軒茶屋グレープフルーツムーンで開催された「月で逢いましょう#151 香水じゅん Chat Noir」は、香水じゅんにとって4回目となるワンマンライブ。
これまで行われた3回のライブでも独自の世界観を築き、見る者に余韻と考える余地を残してきた彼女。今回もMCを一切挟まず、楽曲とパフォーマンスだけで世界を構築していった。
そのため、ライブ後にコメントをいただくのだが、今回は「ライブテーマ」や「衣装のコンセプト」といった定番の質問をすることさえためらわれるほど、圧倒的な内容だった。
そこで今回は、ライブを見ていて率直に感じたことを、そのままぶつけてみた。
「香水さんは美しいんです。ただ、その美しさが、セクシー女優以外の表現をするうえでは、逆に邪魔になっているようにも感じました。今回のライブでは、手で顔を半分覆ったり、アイマスクをしたり、ベールを被ったりと、顔を隠す場面がかなりありました。もしかすると、ご自身でも美しさをあえて隠したいという意識があるのでしょうか?」
つまり、美しいからこそ観客の意識が「美しさ」に集中し、歌声や世界観、そこに込められた感情から目を逸らしてしまうことがあるのではないか、という問いをしたのだった。
「美」をひとつの大きな魅力として活動している彼女にとっては、決して簡単な質問ではなかっただろう。
しかし、彼女はこう答えてくれた。
「私は不安や緊張が顔に出やすくて、口元や目元、視線、息遣い、手先などに表れるんです。だから今回は、そういったものを一度隠した状態で表現したいと思いました。
目隠しをしたり、顔を隠したり、呼吸の合間に口元を隠したりしたのも、そのためです。普段なら何気なくやっていることですが、あえて口元などを隠すことで、より空間になじむのではないかと思いました。


今回の表現では、呼吸や息遣い、視線の動きそのものを表現の一部として組み込みやすい形にしたかったんです」
その言葉を聞いて、ライブの見え方が変わった。
顔を隠すことは、美しさを消すためではなかった。むしろ、顔を覆うことで、その奥にある呼吸や視線、身体の動きに観客の意識を向ける。美しさを隠すことで別の表現を生み出すのではなく、美しさも含めた自分自身を、どう表現の中に置くのか。彼女が選んだのは、そんな方法だった。
ライブが終わると、会場はしばし静寂に包まれた。その余韻を破るように沸き起こった大きな拍手。それは、観客の目の前にいたのが単なる「美しい人」ではなく、一人の表現者としてステージに立つ「香水じゅん」だったことを感じ取った証だった。
華やかさの中に潜む孤独。そして、それでも歌い続ける強さ。
ライブ中、筆者は「香水じゅんの美しさは、セクシー女優以外の表現をするうえで、もしかすると邪魔になるのではないか」と考えていた。


しかし、答えは逆だった。彼女にとって美しさは、隠すべきものでも、乗り越えるべきものでもない。それさえも表現の一部として取り込み、自分だけの世界を作り上げていくものだった。
「美しさは、表現の邪魔にはならない」
むしろ、その美しさがあるからこそ、その奥にある感情や呼吸、視線、孤独までもが浮かび上がる。そのことを鮮やかに示した今回のステージは、これまで数多く行われてきた「月で逢いましょう」の中でも、ひときわ深い余韻を残すライブとなった。
そして何より印象的だったのは、「美しい香水じゅん」を見せるライブではなく、「香水じゅんが何を感じ、何を表現したいのか」を観客に問いかけるライブだったことだ。美しさを武器にするのではなく、美しささえも一つの表現として手放してみせる。その瞬間、彼女は「美しい人」という枠を越え、一人の表現者としてステージの上に立っていたのだ。
ライブが終わっても、すぐには言葉が出てこない。ただ、彼女が残した歌声と視線、呼吸、そしてその奥にある孤独だけが、静かに観客の中に残り続けていた。
それこそが、「月で逢いましょう#151 香水じゅん Chat Noir」が描き出した、香水じゅんという表現者の現在地だった。

■「月で逢いましょう#151 香水じゅん Chat Noir」セットリスト
『溺れる宇宙猫』(きくお feat. 初音ミク)
『夜な夜な夜な』(倉橋ヨエコ)
『意味なしアリス』(谷山浩子)
『クイーンオブハート』(奏音69 feat. 巡音ルカ)
『Child’s Garden』(otetu)
『ディスタンス』(ちゃんみな)
『抜錨』(ナナホシ管弦楽団 feat. 巡音ルカ)
『おとなの掟』(Doughnuts Hole)
『The Beast.』(スペクタクルP feat. 初音ミク)
『この狭い鳥籠の中で』(Sound Horizon)
『辿りつく詩』(Sound Horizon)

■参加アーティスト
平方元(キーボード・コーラス)
福田正人(ギター)
(写真・取材:神楽坂文人)










