女の子も客も知らぬが仏
定番のある意味ぼったくり
今はすでになくなってしまったが、2005年くらいまで、デリヘルとは別に「DC」と呼ばれる風俗があった。
「デートクラブ」もしくは「デートサークル」などとも呼ばれていたが、いわゆる本番デリヘルのこと。それが雑誌や風俗誌の風俗欄に掲載されていた、なんとものどかな時代だった。
あるとき、そんな雑誌広告に、「渋谷発 アイドル事務所直結」とかなんとかいう店を見つけた。
当時はまだ今ほど性格がスレていなかったので、「怪しい」とは思いつつも、謳い文句を信じて入ってみることにした。料金は90分3万円ほどと、普通のデリヘルよりは随分高い。が、この料金でアイドルとイッパツやれるのなら儲けものじゃないか。
道玄坂のラブホに入り、もうじきやってくるであろう芸能事務所のアイドルの卵を、胸をときめかせて待っていた。やってくるのは松浦亜弥か上戸彩か、はたまた石原さとみか⁉︎
「ピンポ~ン」
軽やかなチャイムが鳴り、心臓が飛び出しそうなほどドキドキしながらドアを開けると、そこに立っていたのは、本物のアイドル! というか、アーティスト? 口がでっかくて平べったい顔の女が立っていた。
(えっと、ド○カムの吉田○和…?)
店の人が間違えちゃったのかな。一瞬、そう思ったが、ぜったい違う。結局そういう店だったのだ(号泣)。
仕方なく、高い金払ってビッグマウスと一戦交えることになってしまった。
がしかし、こういう店は往々にして女の子は、自分が在籍している店がどんな広告を出しているかなんて知らされていないものだ。
つまりこのブスも、「アイドル事務所直結DC」なんて謳い文句は知る由もなく、彼女に罪はない。ただ、ブスという自覚がないことを除いては…。
哀れ、だまされた筆者は、その大きな唇でキスされ、その大きな口でチ●ポをしゃぶられ、ブサイクな顔を見下ろしながらパコパコと腰を振らされるのだった…。
(ハ~、全然おもしろくなかったな…。完全にだまされたゼ、くっそー)
シャワーで身体を流してもらい、先に上がって着替えながら心の中でそう呟いた。この苛立ちはどこにぶつければいいのか。
悔しさに歯軋りしていたとき、ふと思った。シャワー浴びたままブスが出てこないのだ。
筆者はすでに完全に着替えが済んでいる。ひょっとして、フロで倒れてるんじゃないか? そう思って浴室の扉を開けて中を覗いてみた。
すると…、なんとブスは、湯船にお湯をたっぷり溜め、悠々と入浴してくつろいでいやがる。おまけにシャンプーリンスまでして、帰ったらそのまま寝れる体制なのだ。
(ブッサイクのくせにアイドルなんてウソぶっこいて高い金とりやがって、おまけに自分だけ悠々と風呂に浸かりやがって、メラメラメラ~)
さっきまでのうっぷんの矛先が、一気に彼女に集中した。
「テメー、このやろう!」
なんて怒鳴ることはもちろんせず、笑顔で、
「ごゆっくり」
そう言ってドアを閉めた。
さっきも書いたが、筆者はもう着替えて帰る準備ができている。てことは、このまま彼女を置いて帰っても何の問題もない。もちろん、ホテル代もプレイ代も支払い済みだ。
しかし、このまま帰るのもしゃくにさわる。ならばどうしよう。
「そうだ、パンティーを…」
持って帰ってしまえば窃盗になる。彼女は疲れていて、家に帰ったらすぐに寝たいはず。ならば、洗濯しておいてあげよう。
そう思い、彼女の黒パンティーを洗面台にお湯を貯めてつけ置きしてあげることにした。そして筆者は浴室の扉に向かって、「お先に」と小さく呟き部屋を出て行った。
春とはいえ、夜はまだ寒い季節だったが、彼女は風呂で温まったはずなので、パンティー履かなくても多分問題なかったに違いない…。
(写真・文/松本雷太)
執筆歴22年、風俗ライター、風俗史研究家。