乗る予定のない女性を飲み込む「ピラニア」
30年もこの世界にいると、見た目だけで痴漢かどうかわかるようになる。
まず、なにより一番わかりやすいのが場所だ。痴漢の9割はどの電車であれ「進行方向先頭車両」にいるものである。ホームにいる時点で怪しい奴はすぐにわかる。
通常、電車が到着するまではホームで列をつくって並ぶわけだが、並ばずにホームの中央でケータイをいじっていたり、柱にもたれかかっていたりしているのはまず間違いなく痴漢だ。
言うまでもなく、電車が来てから最適なポジションを探るためである。
服装にも特徴がある。サラリーマンの痴漢を除き、大抵が身動きの取りやすい肩がけの小さなバッグを持っている。これは両手が自由になることに加え、いざというときに全力で走って逃げ出せるためだ。
また痴漢と言えば、一見オヤジが多そうなイメージを抱きがちだが、常連の顔ぶれは20〜60代とさまざま。ギャル男風の者もいれば、屈強な体つきをした黒人もいる。先入観は禁物だ。
電車がホームに到着すると、痴漢たちは過剰に周囲をキョロキョロしながら並び始める。ターゲットを定めてから電車に乗り込むためだ。女性客はこうした男たちに飲み込まれるようにして電車に「食われて」行く。この様子を私たちは「ピラニア」と呼んでいる。
よくターゲットにされるのは、普段はその路線に乗らない、たまたま混雑路線、車両に乗り込んでしまったようなOLである。ピラニアの勢いは想像以上に凄まじい。これは、痴漢にもっとも勢いのあった2000年代前半のある夏の出来事だ。
いつものように、18時すぎに某路線の先頭車両付近ホームでターゲットを物色していたところ、電車が到着してドアが開いたタイミングで、目の前をセーラー服を着た女子高生が通り過ぎていった。その瞬間。
周囲にいた男たちが、雪崩のようにドアの方向へ、いや、その女子高生目掛けてタックルをするかのごとく流れ込んでいったのである。あっという間に彼女は車両内に押されながらもみくちゃにされていった。もがくように彼女が、閉まりかけるドアの向こうにいる駅員に向かって叫んだ。
「すみません!私、この電車に乗りたいんじゃないんですけどー!」
聞きつけた駅員が急いで彼女を引っ張りだすようにして救出し、ことなきをえた。そう、ピラニアは本来その電車に乗り込む予定ではない女をも巻き込んでしまうのである。
後編に続く
(記事引用元=裏モノJAPAN)