本田真琴ちゃんは、調べましたら、本作のみしか出演作品のない、まぼろしの美少女モデルだそうです。16作のジャケットを見渡しても、シリーズ中、屈指の美貌の持ち主とぼくは感じました。
その真琴ちゃんが、傷だらけの古ぼけた教卓の上にお尻を載せ、白さ引き立つ制服のブラウスの前を解放し、おへそと、小さなブラで覆われた胸元を覗かせています。チェック柄のプリーツスカートもたくし上げて、スベスベの太ももと、ショーツの白い逆三角形をぼくたちに見せつけます。まさに『恋の聖域』というタイトルをビジュアルで的確に表現した匠のワザです。
背景の右側には教室の黒板を置き、左側には大きく窓が開き、木立の緑がうつくしくキラめいています。この窓ですが、じつは写真合成なのでは?とぼくは推測しました。なぜなら教室の空間状況やカメラレンズの角度からみて、このような壁下の位置に窓は存在しないはずだからです。つまり、このデザイナー、あるいはカメラマンは、画面の絵としての構成要素や色味を考え抜いて、この位置に無いはずの窓を合成したのでは? ここに、この色味や要素が、あるとないとじゃ、その処女性や神聖感の立ち上り方が違ってくるからでしょう。
いわゆるデザイン作業(=写真のトリミングや、文字の配置)以前に、このような見落とされがちな構成要素や絵としての構図への根本的なこだわり、こういった気付きにくい地味な作業が、このジャケットデザインの完成度を高めています。実にすばらしい。
このように完成度の高いメインビジュアルがあると、その他のデザイン要素は、じつは素っ気ないくらいがちょうどいいのです。真琴ちゃん自身に備わっているアイドル性と、それを神聖な領域にまで高めた、ヘア&メイク、衣装、背景、撮影の各パートのグッジョブの邪魔にならないように、慎重に、必要最小限のタイトルとレーベルロゴとで、ぜんたいの品格を高めています。なにしろキャッチコピーすらない潔さです。こういうスタイルは、素材に自信が無いと、おいそれと出来るものではありません。
本田真琴ちゃんを筆頭とする『恋の聖域』シリーズのモデルの容貌に対するスタッフのこだわりというか、作り込みの要素ですが、『大塚聖月 恋の聖域』『本郷真捺 恋の聖域』の2本を除き、他は全てのモデルが“色白肌”で、“黒髪ロング”で“ぱっつん前髪”という共通点がありました。この点から、「カワイイ顔のモデルでも、茶髪やショートの娘ではダメなんだ!」という、テーマに見合ったキャスティングに賭けるスタッフの情熱と、高い理想を感じずにはいられません。
ただ、同じような髪型を理想として踏襲するあまり、また、おそらく同じヘアメイクさんが担当して、監督の理想に近づけているためでしょうか、その作り込みによって、どのモデルさんもルックスが似通ってきてしまう、というジレンマも発生しているようです(繰り返しになりますが、ジャケット写真のみを観て感じた個人的感想です)。
とはいえ、どのジャケ写も、その世界観の作り込みは見事なプロの仕事です。それは素晴らしいです。
『恋の聖域/天野涼花』(スパイスビジュアル)
『恋の聖域/佐々木繭』(スパイスビジュアル)
この素晴らしい世界観を絶やさぬためにも、本作スタッフは、シリーズのタイトル数を増やすことに固執せず、理想の新人モデルが目に留まったときにこそ、この見事なタイトルである『恋の聖域』を冠する作品にしていただきたい。本編を1本も観ていないで、こんな注文を言うのも失礼だとおもいますが、シリーズ物のDVDジャケットをデザインするときに、統一感を死守しようと、あれこれ苦労を重ねてきた同業者からのエールです。
P.S. このジャケットにノックアウトされたぼくは、今回の批評を書き終えた後、はじめて本編を観てみました。すると! びっくり! ぼくが合成だとニラんだ教室の窓は、写真通りの位置に実在していたのです。これは、どういうことかというと、この“教室”は、実際の教室や廃校などではなく、山小屋のようなこじんまりした物件の内装を改造してつくられた教室セットだったのです。なので、窓の位置が、通常の教室などにくらべて、極端に低かったのでした。ダマされた〜(勝手に思い違いした〜)!
ほうとうひろし◎エロメディア活動歴28年のエディトリアル・デザイナー。
雑誌版オリジナルの『デラべっぴん』には、同誌創刊2年後の1988年ころから参画。
同誌名物となったエロ紙工作企画「オナマイド」を10年以上にわたって連載した。
「オナマイド」の連載を再構成した単行本は計4冊出版されたが、すべて絶版。
その企画の成り立ちや、当時の『デラべっぴん』編集部の事情に関しては、有野陽一氏の取
材によるインタビュー集『エロの「デザインの現場」』(アスペクト・刊)に詳しい。
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