同じ悪夢を2度見た男
「おもしろい」という表現は、客観的に見れば「おもしろい」が、 主観的だと「笑えない」こともある。今回はそんな話だ(笑)。
新宿・歌舞伎町というのはとても奇妙な街で、たとえば「 客引きは100%ぼったくりです。ついていかないでください!」 と訴える街頭アナウンスが流れているにも関わらず、 それを嘲笑うかのように客引きは平然と声をかけ、不思議にも、 それについって行ってしまう客がいる。
また、 最近はナンバープレート付きの電動キックボードも増えたが、 そうじゃない電動一輪車や電動スクーターが普通に街を行き来し、 路地には違法駐車のクルマが連なる。それでも、 警察官は見て見ぬふりでとおり過ぎる、そんなカオスな街。 しかも、それが区役所のすぐ裏の街で、都庁舎のある区なのだ…。
筆者がフリーの風俗ライターになった2000年代初頭、 そんな歌舞伎町の街をブラブラしていて見つけたのも、 カオスな街にお似合いの風俗だった。
区役所裏の路地で見つけた看板には、『のぞき部屋』の文字が。
「そういや、のぞき部屋って入ったことないかも…」
風俗ライターとして、 あらゆる風俗を経験しておく必要があると思い入ってみることにし た。入口は階段を降りた地下にあった。
店に入り、入り口で確か1万円ほどを支払うと、 通されたのはパイプベッドのある個室だった。
「のぞき部屋ってこんなヘルスみたいなとこだっけ?」
そう思っていると、キャミソール姿の女の子が入ってきて、 メニュー風の紙を見せてこう言った。
「手のコースと口のコースがありますけど、どちらにしますぅ?」
「???」
のぞき部屋って女のコがオナニーとかしている姿をのぞき見るとこ ろだったはず。それなのにまるでヘルスみたいなことを言う。 さらに、彼女が言った言葉に驚いた。
「手のコースが1万円、口のコースが2万円ですぅ」
料金はさっき入り口で支払ったはず。そう言うと、
「あれは入場料です。サービス料は別なんです、ウッフゥ~ン」
その瞬間、 筆者はそこがぼったくり店だということを確信したのだった。
こう言う場合、どうすればいいか?
ぼったくりに引っかかり、 テンパってる頭でとっさに導き出したのが、「 ヌキはどうでもいい。一番金のかからない方法で脱出する」 ということだった。
支払った入場料を取り返すことはほぼ不可能。 そこでゴネたら怖いお兄さんの登場となるだろう。ならば、 それ以上の出費を極力抑えるということだ。
女の子に聞くと、ヌキ有りのコースで一番安いのは手コキだが、 何もせずにキャンセルもできるという。その料金は。
「3000円になりますぅ」
なるほど。最低でもあと3000円はかかるということだ。 しかし、それでこの店から出られるならと、筆者は「 キャンセルコース」を選び、 おっかないお兄さんとの修羅場をどうにかクリアすることができた のだった。
(フゥ、1万円は店側で、 3000円が女のコの取り分ってところかな。ま、 しょうがねーか)
そんなことを考えながら店の出入り口を出て、 外へと続く上り階段を見上げた瞬間、 恐ろしいことに気づいたのだった。
それは、そこから遡ること20年ほど前、 歌舞伎町にファッションヘルスが登場しはじめた昭和時代のことだ 。若き筆者は、地元の友達とクルマで新宿に遊びに来て、 あるぼったくり風俗に捕まってしまったのだった。
その手口は、プレイが終わった頃、 友人についた女の子が個室のドアから顔を覗かせてこんなことを言 った。
「お友達が財布をクルマの中に忘れてきちゃったんだって。 悪いけど立て替えてあげてくれる?」
そう言われ、「普段はしっかりしてるけど、 意外に抜けてる時もあるんだな」そんなふうに思い、 貸しを作った気分で、「しょうがねーなー」と、 友達の料金も支払ってあげて店を出たのだった。
店は地下にあり、 出入り口から地上への階段を見上げた先に友達が待っていた…。 そのときと全く同じ光景が20年後の筆者の目に飛び込んできたの だった!
まさか…。
「財布忘れたんだって(笑)」
友達にそう言うと、
「え、財布忘れたの、オマエだろ?」
その時の絶望感が、 再び筆者にコールタールの雨のように降り注いできたのだった…。
ぼったくり店が20年以上同じ場所で営業できる街、 それも歌舞伎町だ(笑)。
(写真・文/松本雷太)
執筆歴22年、風俗ライター、風俗史研究家。
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