1985年に創刊され、エロ雑誌の代名詞にもなった雑誌『デラべっぴん』。
この雑誌の名物企画だったのが本サイトでも復活した『オナマイド』だ。
その制作に大きく関わり、本サイトの『オナマイド』も手がけるデザイナーのほうとう氏にこの名物企画の誕生秘話を語ってもらった。
世間を騒がせた事件による自主規制
そこから苦肉の策として生まれた名企画!
20世紀末の日本で《エロ本》の代名詞とさえよばれた伝説的な月刊誌、それが『デラべっぴん』(英知出版)でした。1985年に創刊され、2004年に休刊ですから、その名が書店の店頭から消えて、既に10年以上も経過したことになります。
『デラべっぴん』は創刊編集長・黒木さんの「娯楽雑誌には付録も必要だ」というポリシーに基づいて、当初から、ヌードの分解写真や、ヌード写真を切り抜いた人形に、写真のセーラー服や体操着といったコスチュームを着せかえるような〈工作企画ページ〉が、毎号かならずあり、それは他の男性エロ雑誌には見られない『デラ』ならではの大きな特徴でもありました。
しかし、通常のヌードグラビアなどに比べると、設計も、撮影も、レイアウトも、面倒で細かな計算が必要な工作企画は、最初から付録ありきの幼年誌や学年誌業界ならならともかく、エロ雑誌業界には、そもそも請け負う人材が見当たりません。そこで編集長は、なんと自ら全てのパートの監修指示を担当していたのです。
僕は『デラべっぴん』創刊時の当初、末端のデザイナーとしてモノクロ記事ページなどを手伝っていたのですが、もともとデザインよりも工作が得意だったこともあり、編集長の仕事を羨望の眼差しで眺めながらも、時には「ここは、このようにしたらどうでしょう?」などと生意気にも意見を述べたりしていました。
そのうち、「そこまで熱心に言うなら、ほうとうさんがやってくださいよ」と編集長に依頼されるようになったのでした。そこで、すでに編集部にあった過去の工作企画用ヌード写真を再利用することを前提に『アクション・ボディ・ドール』という企画をたて、1989年3月より連載を始めたのです。
これは小森愛さんや秋元ともみさん、早川愛美さんなど宇宙企画所属の人気AVアイドルのヌード写真をつかったバービー人形サイズの、関節10ヵ所がちゃんと可動する紙人形で、「ヴィーナスの誕生」の絵のように左右の手で胸と股間を隠すことも出来れば、たけしの「コマネチ!」ポーズもとれる精巧なものでした。パーツ数も多く、完成させるには優に2時間は必要な、いわば “紙のプラモデル” でした。
これは “日本一のデラべっぴんマニア” ことDBM氏のブログ「超別嬪マニア煩悩館」にも紹介されています。
『アクション・ボディ・ドール』は、さいわいにも読者からも好評を集めたので、そのまま連載を重ねました。ところが、まったく同時期にあの忌まわしい「埼玉連続幼女誘拐事件」が発覚し、連日大騒ぎの報道がされだしたのです。それを報じるワイドショーや週刊誌では次第に、事件との因果関係すら定かでないにもかかわらず、ホラービデオや漫画の、エロと残酷の表現を問題視する発言がささやかれだし、業界には「叩かれる前におとなしくしておこう」という自主規制ムードが漂ってきました。
じつはこの紙人形、自分としては手足や首や胴体がバラバラにランナー内に構成されている『ガンプラ』と、まったくおなじような工業的感覚でレイアウトしていたのですが、裸の女性の写真がバラバラに誌面化されているのは、見ようによっては「猟奇的で事件を連想させる」という意見も上がり、会社上層部からは「もうちょっと穏やかな表現にしてもらえない?」と懇願されました。まさに連載続行の危機です。
もっとも、その問題とは別に、人形の素材として使えるストック写真も底をつく寸前でした。さらに、モデルが替わるだけで毎回同じパーツ構成の工作、という仕事に僕自身がマンネリを感じていたこともあって、「これから工作企画用にヌードを新規撮影しなければならないことだし、それならば、いっそ今までとは違うアイデアの工作ものをやってみませんか?」と編集部に提案してみたのです。
新しい工作企画のヒントは、以前、僕が銀座の洋書店で立ち読みした『The Naughty Nineties A Saucy Pop-Up Book for Adults Only』という大人向けの絵本のなかにありました。それは19世紀末の風俗画風に描かれたフレンチカンカンの女性がスカートをめくり、脚を蹴り上げ、紳士淑女はところ構わず密着させた腰を振ったりする動きが面白い動く絵本でした。
「この動く絵本の企画者、レスリー・ジェーン・
これを現代風で、よりナマナマしいデラべっぴん流のエロ工作にアレンジしようというのが僕の提案でした。
《女性が胸を揉んだり、オナニーをしたりするブロマイド》という発想で、まずは僕が手描きしたマンガ絵をもとに、実際に動く試作品を幾つか作りました。そして編集部での討議の結果、実制作へのGOサインが出たのです。(続く)
※画像提供『兵藤写真館R』
※「The Naughty Nineties prototype pop-up book」の日本語版
『お行儀の悪い世紀末―ノーティ・ナインティーズ』
(文・ほうとうひろし)