「自分だったら」のリアリティを作品に入れる
—— では、お次は「定点観測」について教えて下さい。
朝霧流AV演出③ 定点観測
エロシーンのいくつかを意図的に思い切り引いたカメラ位置で撮影する。キスしようがパンツ脱ごうが決して寄らない。他人の生活を覗き見るような妙なリアリティが生まれる。人はよく見えないものほど「もっと見たい」という欲求が増し、画面に引き込まれるのだ。 pic.twitter.com/STgrNobnV1— 朝霧浄(AV監督) (@asagirijoe) October 1, 2020
朝霧 この、「定点カメラがいくつかある」みたいなやり方は、違うジャンルの盗撮モノとかによくあった手法だと思うんですけど、これが「ドラマのシーンにあったら面白いな」って思ったんですよ。
映像っていうのは、視聴者との心理戦なので、この定点カメラの引きの画で「あれ? おっぱいがよく見えないぞ? もっとよく見たいんだけどな」となった時に、次のシーンでハッキリとおっぱいを映すと「見れた‼︎」という感動を覚えてもらえるんですよね。
だから、この手法はいわゆる〝すかし〟ですかね。ちょっと箸休め的な繋ぎのシーンに使うことが多いです。
朝霧 あと、定点観測を〝ワンシーン・ワンカット〟で、演者のアドリブを交えてやることによって、ちょうどよく「リアルな生活を覗き見ている」ように見えるんですよね。リハーサル時に、女優さんや男優さんとは細かく話し合います。「あなただったら、こういう場面では先に飯食う?それとも一回フェラチオさせてから飯食う?」みないな感じで(笑)。
それぞれの「自分だったらどうする?」を現場に持ち込んで、時にはスタッフにも聞いたりしながら、「自分だったら」のリアリティを作品に入れる。すると、ユーザーの方も「わかる!自分でもこうするな!」とか「いや、自分だったらこうだけどな」みたいに、想像力を喚起させてくれると思うんです。
朝霧 あとですね、僕はエロ漫画を参考にAVを作ることが多いんですけど、最近「背景は一緒で、人物の位置だけが変わっている」っていうのが流行っています。それもあって、「やっぱりこの定点観測は使おう」って思って、やっているというものありますね。
昔から同じようなことは、いろんな人がやってるんですよ。凄く遡ると1971年に、スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」という映画で、カメラを一台固定して女の子を二人部屋に連れ込んで、すごい早回しでセックスしてるシーンをワンカットで見せるみたいなのがあったりして。僕が使ってる技法は、いろんなところから影響を受けて出来たものなんです。
—— では、前編ラストになります。「スマホ主観」について教えて下さい。
朝霧流AV演出④ スマホ主観
引いた画面からいきなり主観(カメラ目線)の女優のアップを挿入すると、急に物語世界に入り込んだような鮮烈な没入感を与えることができる。出演者が持っているカメラとして一番違和感がないという理由でスマホを採用。多用しすぎると効果が半減するので注意。 pic.twitter.com/0SiTXKdXja— 朝霧浄(AV監督) (@asagirijoe) October 2, 2020
朝霧 これは賛否両論巻き起こりましたね(笑)。元々僕がスマホを使うようになったのは、とあるミュージックビデオでスマホで撮影しているのを見て「これ使えるな」と思ったのがきっかけです。
そして、最初に使ったのが「3日間シリーズ」の一番最初の作品で、冒頭の川上さんたちが焼肉を食べてるシーンを、ワンシーン・ワンカットで引きの定点カメラで撮ろうと思っていたんですけど、そうなると、普通ならもう一台カメラがほしいってなると思うんですよ。引いてる画だけだと、視聴者は退屈に感じで早送りしてしまいますからね。
朝霧 じゃ、寄りのカメラを入れようとなった時に、実際にそれを入れると物語として「このカメラなんなの?」って不自然になっちゃいますよね。そこで、「登場人物にスマホを持たせようか」って考えたんです。
最初の台本ではハンディカムでした。持っている男の子が映画研究会という設定を付けて(笑)。でも、今の時代に「自然に友達を撮っているカメラ」といえばスマホだなって思い、切り替えた形ですね。元々はこのような理由でスマホを使ったのですが、使ってみるとこれはかなりいいなってことに気が付いたんですよ。引きの定点から一気に視聴者がお話の中に入っていける感じがするなって。
さらにこれはプレイにも使えると思って、「自分が大学生だったら、友達の女の子とエロいことをする時にスマホで撮るなら縦撮りだよな」と思い、最初の川上さんの時は縦撮りでやって、この時は賛否両論の賛が多かったんです。
でも、この作品以降「スマホ主観」が業界で流行ってしまって、ユーザーの方から「画面が小さい(AVのスマホ視聴が増えた時代に、スマホからさらにスマホの縦切りにするとかなり小さく映ってしまうから)」って言われ出して、賛否の否が増え出しちゃったんです。なので、最近はより効果的なところでしか「スマホ主観」は使わないようにしています。自分がやり始めた手法を、自分で封印してるっていう形ですね(笑)。最近はYouTubeで横撮りが慣れてきた時代なので、撮るなら横撮りで撮ることはありますが。
大切なのは、AV界以外の流行りや時代感に気を配って、それに合わせ「違和感を無くす」ということですね。そして、いかにユーザーの方を飽きさせずに「新しい手法を取り入れる」ということを意識しています。
皆さんお久しぶりです! リボルバー・ヘッドです! 文字数の関係で、陰を潜めていましたが、ちょいちょい気になる質問を挟んでは脱線させて、個人的に興味があることを聞きまくっていました!
そんな質問に対しても、丁寧に答えてくれる朝霧監督は優しすぎます!!
いや~貴重な話の数々でしたね。朝霧監督の作品のリアリティは「自分だったらどうする?」を意識されているから生まれていたのですね!そして、会話の端々に「演者が一番」とおっしゃられていたのが印象的でした!
中編では、「⑤感情の流れ」、「⑥決めカット」、「⑦食欲と性欲」、「⑧マッチカット」のお話をして頂きます!ぜひ、お楽しみに!!
朝霧浄(あさぎりじょう)@asagirijoe
丁寧なドラマモノを作り続け、こだわり抜いた作品で魅了してくれるAV監督。2018年より「3日間シリーズ」が大ヒットし、“監督名で作品が売れる”といわれる。現在twitterに投稿した「朝霧流AV演出」が話題を呼んでいる。
リボルバー・ヘッド @RevolverHead01
AVを心から愛する芸人。28歳で既婚者。過去には女優さんのリリースイベントに通っていて、お会いした女優さんは200名を越える。過去観た作品は、イチ○ー選手の安打世界記録(4367本)を越える。AVに関するコラム多数執筆中。趣味は筋トレで、ベンチプレスは145キロを上げる。
(インタビュー:リボルバーヘッド)