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【宍戸里帆の淫鬱な楽園Vol.2「消えないで、憂鬱」】アダルトの世界にまつわる事象を新人女優の宍戸里帆が連載!今回は「自慰行為後の憂鬱」を学術的かつ叙情的に分析!

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もう一度、オナニーの変容に沿って考えてみてもらいたい。
レンタル時代、彼(彼女)がそこに行き着くまでのあらゆる作業 ―悩む、賭ける、借りる、気にする、入れる、出す、巻き戻す、返す― などの中で女優の身体は徐々に鑑賞者の精神と分裂してゆき、我々がAV女優というものに接する時にはすでに、彼女達は“そこにいない=不在”のイメージそのものとして固定されたテレビ画面の中でのみ機能する。
一方で、スマホの画面に収まるいかにも窮屈そうな女優の肉体は、鑑賞者の手によって時と場のしっこくから解放される。
さらに言えば、アダルトVR等の発展によってAVのフレームという概念は消え、映像の中に鑑賞者が収まるという逆転が生じ、女優と我々の精神は分裂するどころか同一化してゆく。

そこにいないことが当たり前であった時代から、あたかもそこにいるように錯覚させる時代へ。
それによって女優の不在の問題は解決したかのように思えるが、やはりそこに彼女が“いない”ということに抗える者はいなかった。
それらも結局はこちらに迫り来る ―本当はそこに存在しない― 肉体によって、女優自らが身体の不在の事実を見る者の目前から覆い隠しているだけにすぎないのである。

 

見えているものは全て事実だが、必ずしもそれらが全て真実とは限らない。
もっと言えば、彼女達にとって“不在であること”は画面の向こうに“存在すること”と同義なのであって、女優こそが“ない”ということの絶対的な体現者でもある。
AV女優とは、その存在自体が矛盾を孕み浮遊する空の肉体なのだ。
貴方が絶え間ないこの憂鬱の波に呑まれるのは、(最初から気付いていたにも関わらず)ずっと見て見ぬふりをしてきたその事実を認めざるを得ない時だろう。

「賢者タイム」(※3)という状態の中で一瞬たりとも気を抜けば、両手を広げ待ち構えていた楽園追放の瞬間の絶望と虚無が、すぐさま我々を呑み込んで離さない。
だが、そんな憂鬱こそ、貴方が真に求めていたものではないだろうか。
なぜなら、女優の身体の不在によって引き起こされた翳りのない憂鬱だけが、どうしようもないほどに自身の性的興奮を増強させた女優の肉体が確かに存在していた事実を逆説的に立証してみせているのだ。

ゆえに、この楽園からは憂鬱の色が消えない。
むしろ、そこには健全な憂鬱がなくてはならない。
そして、自分の憂鬱を愛さなければならない。

オナニーのあとに残る健全な憂鬱、それこそが女優の身体の不在を越えて、貴方と私、ただ二人、この楽園に降り立っていたという確固たる証明なのだから。

 

※1:阿部嘉昭『AV原論』、関西学院大学出版会、1998年、33-38ページ。
本書曰く、おおむねAVはこの地球上のどこかの部屋のなかで撮られたものであり、そのAVを我々もおおむねこの地球上のどこかの部屋のなかで鑑賞している訳であり、この「地上のひとつの場所」という共通認識がそれぞれの「部屋」によって貫通する瞬間が存在している。
本コラムの主軸となる「憂鬱」についても、それらは一般的に室内において引き起こされるものだと指摘する阿部氏の論考を元にしている。

※2:『AV原論』の中に、「・・・「憂鬱」が必ずしも否定的価値を備えているものではない事、むしろそれを肯定的価値とする事が、「憂鬱」が必定となるAVの属性そのものをどう把握するかに繋がるのである。」(297ページ)、「ただ、そのようにAVがその特殊な局面のみではなく、本来的に「憂鬱」を昂進させる作用をもっていることに、彼はやがて気づく。」(251ページ)との記述があるが、憂鬱を神経症的な局面のみで捉えないこと、それこそ私自身がAVに対して抱く魅力を理解する上で欠かせないプロセスの一つである。

※3:「賢者タイム」は一般的に、射精後の煩悩なき悟りの境地のようなイメージで使われがちだが、元来は男性における「性交後憂鬱(post-coital tristesse)」を指す言葉である。
ここでの憂鬱はフランス語で「悲しみ」を意味する“tristesse”として表記されているが、上にも記したよう、その憂鬱(の悲しみ)を一方的にネガティブなものだと決めつけるのではなく、性的な営みによって少なからず憂鬱が引き起こされるという事実を重要視しているのであって、本コラムはそのような考え方に抜本的に支えられているものである。

 

宍戸里帆(ししど・りほ)
生年月日:2001年10月14日
身長:153cm
スリーサイズ:B86(Gカップ)・W59・H90
Twitter:@shishido_riho

(文・写真:宍戸里帆 写真・構成:神楽坂文人 協力:マインズ

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